セシウム137の半減期はおよそ30年です。これは、100個のセシウム137原子を30年間置いておくと、その間に半分の50個ぐらいが別の原子に変わってしまうということです。

では、さらに30年置いておくと、残りの50個も別の原子に変わって、セシウム137原子は無くなってしまうのでしょうか。そんなことはありません。実際には25個ぐらいが別の原子に変わり、残りの25個はセシウム137のまま残ります。

この事象は、なんとなく直感に反します。だって100個の卵のうち50個を割るのに3分かかったとすると、もう3分経てば100個全部を割ってしまえそうなものです。それが25個しか割れないだって? なぜ?

放射性核種が半減していく様子は、コイン投げのようなものです。100枚の十円玉を一斉に投げると、だいたい50枚ぐらいが表を向きます。では、表を向かなかった残りの50枚を集めてもう一回投げると、今度は全部表が出るでしょうか。そんなことはありません。おそらく25枚ぐらいが表で、残りの25枚ぐらいは裏になるでしょう。100枚から始めて3分ごとに、裏が出た十円玉だけを集めて投げ続ける。これが、半減期3分の原子100個が崩壊していくイメージに近いのではないかと思います。

どうしてコイン投げと放射性物質の半減が似ているのでしょうか。1枚の十円玉を投げて表が出るか裏が出るかは確率的に決まっていて、表が出る確率が50%、裏が出る確率が50%です。同様に、1個のセシウム137原子が30年の間に崩壊するかしないかも確率的に決まっていて、崩壊する確率が50%、しない確率が50%だからです。

最初の30年で崩壊しなかった原子は、30年前より崩壊しやすくなっているかというと、そんなことはありません。どれだけ時間が経っても、まだ崩壊していない原子がその先の30年間に崩壊する確率は、やはり50%のままなのです。これは、今投げた十円玉が裏だったからといって、次に投げると表が出やすくなっているわけではなく、次もやっぱり50%の確率で表が出るのと同じことです。


話は少しそれますが、何かの事象の起こりやすさ (あるいは起こりにくさ) を、十円玉を使って直感的に把握してみるということを、私はよくやります。例えばいま発売中の「年末ジャンボ宝くじ」。今年は1等2億円の当籤本数が倍増して、1,000万枚あたり2本になったそうです。ということは、1等の当選確率は500万分の1。これは大雑把に言うと、十円玉を22枚投げて全部表が出るのと同じぐらいの確率です。22枚全部が表……、普通ではとてもありそうにないことです。もっともこれは、年末ジャンボを「1枚だけ」買って1等が当たる確率ですから、仮に頑張って「1万枚」買ってみたとしましょう。代金は300万円です。それでも当選確率は500分の1ですから、十円玉換算では約9枚になります。9枚投げて全部が表……、これでも十分「ありそうにないこと」のように、私には思えます。

この「十円玉換算法」、簡便には十進法の数字の桁数に3を掛ければだいたい十円玉の枚数になりますから(500分の1だと3桁×3で約9枚)、覚えておくと便利です。(何に!?)