こないだ、iPhoneのAppStoreで「MOT Finnish-English」というフィンランド語-英語、英語-フィンランド語辞書を買いました。ちょこっと使ってみた感じだと、検索語はわりと高い確率でヒットするので、想像してたよりは大きめの辞書みたいです。

この、「辞書の大きさ」とか「詳しさ」みたいなものって、最近の電子化された辞書だと感覚的に把握しにくいですよね。紙の辞書なら大きさとか厚みとか重さとか、あるいは本文の字の小ささなんかで規模が一目瞭然だったわけですが、スマホやウェブの辞書ではそうもいきません。MOT Finnish-Englishも、アプリの説明には「almost 225,000 search words」とありますが、うーん、何万語とか言われても、それ実際どのぐらいなのかねえ、という感じ。

そこで、ある程度規模感が分かっている手持ちの辞書で、なにか適当に決めた範囲、ここでは英語の「enter」から「entertain」までの見出し語の数と、あと「enter」の語義・例文の文字数を数えてみて、それと比較してみることにしました。なお、文字数は細かいことを無視して機械的にカウントしたので、だいたいの目安と思ってください。

まず大型の英和辞典だと下のような感じ。さすがにこのクラスは30万前後の収録語数を誇るだけあって、専門用語がかなりたくさん入っています。説明や例文の量も多いです。リーダーズは、語数は多くても説明は他よりコンパクトなんですね、やっぱり。

  • 研究社 新英和大辞典 第6版 (約260,000項目収録)
    →43語、3956文字
  • 小学館 ランダムハウス英和大辞典 第2版 (約345,000語収録)
    →40語、3196文字
  • 研究社 リーダーズ英和辞典 第2版 (約270,000語収録)
    →34語、1515文字
  • 大修館 ジーニアス英和大辞典 用例プラス(約255,000語句収録)
    →31語、5583文字

中型の英和辞典としては、研究社の新英和中辞典を見てみました。さすがにenter~entertain間の語数は7個にまで減ります。その7語は、enter、enteric、enteritis、enterprise、enterpriser、enterprising、entertainでした。

  • 研究社 新英和中辞典 第6版(約90,000語収録)
    →7語、1999文字

小型の英和辞典としては、ポケット辞書のデイリーコンサイスと、豆辞書のジェムをサンプルにしてみました。このクラスはやはり説明の量がぐっと減ります。でも語数は中型とそんなに変わらないんですね。意外~。デイリーコンサイスの7語はenter、enteric、enteritis、enterogastrone、enterprise、enterprising、entertain、ジェムの5語はenter、enteric、enteritis、enterprise、entertainでした。

  • 三省堂 デイリーコンサイス英和辞典 第5版(約53,000語収録)
    →7語、232文字
  • 三省堂 ジェム英和・和英辞典 第7版(約33,000語収録)
    →5語、127文字

英英もいくつかみてみます。ODEはそこそこ大型、ロングマンとコウビルドは中型の学習辞書で、数値的には英和辞典と似た傾向を示しています。ロングマンの5語はenter、enteritis、enterprise、enterprising、entertain、コウビルドの5語はenter、enterprise、enterprise zone、enterprising、entertainでした。

  • Oxford Dictionary of English 2nd Ed (約355,000項目収録)
    →22語、1931文字
  • Longman Advanced American Dictionary (約84,000語収録)
    →5語、3432文字
  • Collins Cobuild Advanced Dictionary of English (約80,000項目収録)
    →5語、2716文字

その他雑多な言語の辞書もいくつか。次の2つはどっちもポケット版の小さな辞書で、収録している4語はいずれもenter、enterprise、enterprising、entertainでした。

  • Oxford French Minidictionary (約48,000語収録)
    →4語、160文字
  • Collins Spanish Gem Dictionary
    →4語、147文字

次のアイスランド語の辞書は、サイズは大きいけど紙が厚くて字も大きいので、内容的にはジェムとそんなに変わらないと思われるものです。収録している5語はenter、enteritis、enterprise、enterprising、entertainでした。

  • Orðabókaútgáfan Ensk Íslensk Orðabók
    →5語、134文字

次はTeach Yourselfのエスペラント語辞書。語義の説明とか例文は一切無いので、中身は単語集レベル。収録している4語はenter、enteritis、enterprise、entertainでした。

  • Teach Yourself Esperanto Dictionary (約19,500語収録)
    →4語、29文字

最後は、これまたTeach Yourselfのヒンディー語辞書。収録語数は「find over 14,000 definitions」とあるので、内容的にはかなり小型。例文は多少ついてます。enterの次がentertainingになってしまっているので、今回の基準だと、なんと収録語はenter 1語のみ。

  • Teach Yourself Hindi Dictionary (約14,000項目収録)
    →1語、302文字

ちなみに、Word frequency dataというページで無料公開されているアメリカ英語の使用頻度上位5000語を見てみると、

  • enter 710位
  • enterprise 2522位

とのことなので、少なくともこの2語が入っていないようだと基本3000語の基礎語彙もカバーしきれてないということを意味し、本格的な学習に使うのは無理な感じです。

結果をまとめると、

  • どんなに小さな辞書でもenterからentertainの間に4~5語は見出し語がある。特にenter、enterprise、entertainの3つは必須。これがなければ辞書と言えないレベル。
  • 中型辞書では5~7語ぐらい。
  • 20語を超えると大型辞書。
  • 「enter」の説明や例文が300文字以下のものは、かなり小さな辞書、あるいは辞書というより単語集。
  • 1500文字以上あるようなら、かなり本格的な辞書

という感じでしょうか。

さて、そこで冒頭に挙げたMOT Finnish-Englishを調べてみると……、

  • MOT Finnish-English (約225,000項目収録)
    →14語、1620文字

お、やっぱりけっこう収録語数が多いですね。また説明も豊富な部類に入ることが分かります(ただし、以前も書いたとおりベースはフィンランド語話者のための辞書なので、地の文はフィンランド語です。だから学習者にとって使いやすいかどうかはまた別の話……)。ちなみに、14語の見出し語は次のとおりでした。

enter
enteritis
enterocolitis
enterodynia
enterorrhagia
enteroscopy
enterostomy
enterotoxin
enterprise
enterprise culture
enterprise financing
enterprise zone
enterprising
entertain

では、前にEPWING化してEBPocket for iOSに入れてみた12か国語大辞典の芬英辞書はどうでしょうか。こちらは語数も説明もかなり少ない印象でしたが……、

  • Werner Söderström Osakeyhtiö English-Finnish Dictionary
    →4語、582文字

あー、やっぱりね、という感じです。これもなんとなく感覚と一致。

ふーむ、ということは、このenter~entertainの語数を数える方式、結構いろんな辞書の簡易評価に使えるかも……。