はじめに

2023年10月の発売以来ずっーと気になっていたHHKB Studioをついに入手した。モデルはHHKB Studio日本語配列/雪(PD-ID120Y)。

ただ、しばらく実際に使ってみた結果、残念ながら自分にはあまり合わないという結論になった。せっかくなので、どの辺が合わなかったのかをメモしておく。

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自分のこと

まず、使用者(自分)のことを簡単に。

プライベートでも仕事でも、WindowsでHHKB Professional HYBRID Type-S日本語配列を使っている。それ以外のキーボードは、最近はまったく使っていない。

キーマップ変更ツールによるカスタマイズは最小限で、基本的には素のHHKBに近い形で使っている。デフォルトではどのキーにも割り当てられてないNumLockアプリケーションキーを、自分ではまったく使わない半角/全角ひらがな/カタカナキーに割り当てたり、VolDnVolUpMuteのメディアキーをFn+A/S/Dに割り当てたりしている程度。

ちなみにマウスは、LogigoolのM750をLogi Bolt(USBレシーバー)に繋いで使っている。サイドボタンを押しながらホイールを回すと横スクロールする機能を多用している。

キースイッチ

HHKB Studioのメカニカルスイッチは、Type-Sよりもストロークが浅く、タクタイル感も無くて、「コトコトコト」と言う感じ。打鍵感は決して悪くないと思う。悪くないとは思うが、Type-Sの、あのストロークが深くて「スコスコスコ」という感じに比べると、キーを叩いたときの「あー気持ちいいなあ」という喜びがない気がした。まったくもってこの辺は個人の好みに過ぎないが、自分はType-Sの打鍵感がすごく好きなんだと再認識した。

ポインティングスティック

むかし仕事でThinkPadを支給され、ドキュメントの図までトラックポイントで描いていた時期もあるので、別に苦手意識はないと思っていたのだが、しばらくポインティングスティックオンリーで生活してみても、無意識に使えるようなレベルには至らず、結局マウスに戻ってしまった。やっぱりマウスに比べると、意図した場所にポインタをピタッと止めるのに、ちょっと余分に脳味噌を使わなきゃいけないような感じがする。

ポインティングスティックの利点は、手をホームポジションに置いたままポインタを動かせるということだ。ただ、HHKBの日本語配列にはカーソルキーが装備されていて、意外と多くの時間、右手はキーボード右下のカーソルキーのポジションにいたりする。そうすると、スティックを使うためには結局手をホームポジションまで動かさなければならず、それだったらマウスに手を持っていく方がはやいとも思った。

あと、使っている間にポインタのドリフトが止まらくなったことが何度かある。いちばん酷いときは、どんなにポインタを引き戻してもすぐ画面左上まで泳いで行ってしまって、結局HHKB Studioの電源を入れ直すまで治らなかった。

良かった点もある。

中央のマウスキーを押しながらポインティングスティックを倒して上下左右にスクロールできるのは、マウスより直感的で便利だなと感じた。

マウスを置くスペースが取れないような狭い場所で作業をするときも、ポインティングスティックが活躍しそうだ。冬の寒い日にコタツの中でキーボードを打つときにも便利かもしれない(これはマジでHHKB Studioが欲しいと思った理由のひとつ)。

マウスキー

予想外の鬼門がマウスキーだった。

自分は無変換キーをIMEオフに、変換キーをIMEオンに割り当てている。そのため、日本語を入力するときは無変換スペース変換の3つのキーを頻繁に叩く。

HHKB Studioに搭載された3つのマウスキーは、ちょうどこの3つのキーの手前にあるので、両者を頻繁に押し間違えた。つまり、「左クリックが効かない?」と思ったら無変換キーを押していたり、「IMEがオンにならない?」と思ったら右マウスキーを押していたり、という類の取り違えが頻発した。そして、どれだけ使っても取り違えの頻度が減らず、ストレスが溜まった(キーボードを打つときに手元をまったく見ないということも関係しているかもしれない)。

ところで話は変わるが、もしHHKB Studioで親指シフト入力するなら、

  • 無変換キー (またはSpaceキー) を左シフトに
  • 変換キーを右シフトに
  • 左マウスキーを無変換に
  • 右マウスキーを変換に

することで、往年の親指シフトキーボードにかなり忠実な使用感が再現できるかもしれない。HHKB Studioが発表されたとき、最初に思ったのはこれだった。ただ、現在は親指シフトをやめてしまったので、実際にこの割り当てを試してみてはいない。

ジェスチャーパッド

まず感度がイマイチ。感度設定を上げても下げても、パッドに触れてすぐは反応せず、指で少し撫でると急に反応を始める感じ。もしかしたら誤操作防止のためにわざとそうしているのかもしれないが、パッドと言うからにはMacBookのトラックパッドみたいなスムーズな動きを想像していただけに、少し期待はずれだった。

デフォルトでは、左側面パッドに上下の矢印キー、左手前パッドに左右の矢印キーが割り当てられている。しかし、前述のとおりHHKB日本語配列にはカーソルキーがあるので、わざわざパッドの方を使おうという気にはならない。

デフォルトでは、右手前パッドにウィンドウ切り替えが割り当てられているが、指をほんのちょっとスライドさせただけで何画面分もフォーカスが移動する感じで、狙った画面のところで止めるのが難しかった。

デフォルトでは、右側面パッドにスクロール(マウスホイールに相当)が割り当てられているが、指を端までスライドするとスクロールが止まってしまうので、長い画面をスクロールするためには指を何往復もさせる必要がある。ここは「ポインティングスティック+マウスキーの中央ボタン」のように、スライドの中央ならゆっくり、端の方なら高速に、連続的にスクロールする仕様にした方が使いやすいのではないかと思った。またウインドウ切り替えと同様に、狙った位置でスクロールを止めるのも難しい印象だった。

それと、HHKB Studioを使って初めて気づいたのだが、自分は無意識のうちに、キーボード側面に指をひっかけてデスクの上でキーボードの位置を微調整するということを頻繁にやっていたらしく、思わぬところでカーソルが動いたり、ウインドウが切り替わったり、画面がスクロールしたりするので、これもストレスが溜まる原因になった。

また、意識的にキーボードの位置を変えるときも、長い辺の中央同士をつかんでパッドに触れないようにするなどの考慮が必要で、ちょっと扱いがデリケートな感じ。

あと、キーボード側面に指が触れていないのに機能が発動することがたまにあり、ジェスチャーパッドの暴走のようにも感じられた(本当にそうかはわからないが……)。ポインタのドリフトもそうだが、この辺はまだファームウェアが発展途上なのかもしれない。

キーマップ

HHKB StudioのデフォルトのキーマップはHHKB Professionalとほぼ同じだが、Windows用キーマップ(Profile1)でもFn1面にメディアキーが割り当て済であり、この点は改良されている。HHKB Proでは、Mac用キーマップにしかメディアキーが割り当てられておらず、Windowsで使いたければ自分でFn面に割り当てる必要があった。

HHKB Studioのキーマップ変更ツールは、Pro版よりかなり強化されており、これは良い点だと思う。Pro版ではWindows用とMac用の2セットだったのが、HHKB StudioではProfile1~4の4セットに増えた。また、各セットの中の面数(レイヤー数)も、Pro版では標準とFn押下時の2面だったのが、標準、Fn1押下時、Fn2押下時、Fn3押下時の4面が用意されている。それに、各キーに割り当て可能な機能の数自体も、Pro版より大分多い。

ただ正直なところ、4セット×4面のキーマップを作って使いこなすには、それを全部覚えるだけの記憶力も必要になるわけで、自分としてはPro版の2セット×2面でも十分だと思った。

HHKB Studioのキーマップ変更ツールでは、キーにショートカットを割り当てる機能もある。自分は勝手に、複数キーのシーケンスもショートカットとして登録できると誤解していたのだが、実際には何か1つのキーと最大4種の修飾キーを組み合わて登録できるだけだった。つまり、Ctrl+Alt+Deleteを1つのキーに割り当てることはできるが、Ctrl+KCtrl+Sのような連続操作を割り当てることはできないということだ。

ちなみに、この文章を書いていて、HHKBで割り当て可能な機能の一覧と、デフォルトのキーマップが知りたいと思ったが、どちらもマニュアルには記載が無く、実際にキーマップ変更ツールを起動させて調べるしかなかった。毎回それをやるのも面倒なので、この記事の末尾に、HHKB ProとHHKB Studioで割り当て可能な機能の一覧とデフォルトのキーマップを載せておく。

その他

外観: HHKB Proで使っているのが「雪(無刻印)」なこともあって、非常にすっきりしたその外観に比べると、HHKB Studio雪には、(1)キーの刻印、(2)ポインティングスティック、(3)マウスキー、(4)太めの枠、がある分、どうしてもちょっとごちゃついて見える。キーボードの底面が銀色で、上部とは別の色になっているのも、その印象を強めているかもしれない。完全に好みの問題だが、自分はやはりHHKB Proのすっきりした見た目の方が好みだ。

重さ: HHKB Pro Type-Sは、乾電池込みの実測で604gのところ、HHKB Studioは945g。これも人によるだろうが、自分としては鞄に入れて持ち歩くかどうかの分岐点のあっち側とこっち側という感じで、その違いは割と大きい。

電源スイッチ: HHKB Proは、丸いボタンを長押しして電源をオン/オフするタイプだが、HHKB Studioでは横長のスイッチをスライドさせてオン/オフするタイプに変わっている。オフのときは白、オンのときは緑のマークが見える。が、オートパワーオフで電源が切れた場合は、スイッチの見た目と実際の状態に乖離が生じるわけで、個人的にはType-Sの方が良いと思う。

さいごに

HHKB Studioが発表されたとき、新機軸の数々に目を奪われ、いつかは使ってみたいと憧れ続けたことが災いしたのか、期待と現実とのギャップから、かなり辛目の意見になってしまった。

考えてみれば、キーの数をぎりぎりまで絞ってコンパクトにしながら、使い勝手は普通のキーボードより良くするという、一見真逆にも思える要求に見事に応え、絶妙なバランスの上に成り立っているのがHHKB Professionalシリーズなわけで、そこに何かを付け加えつつ、しかもバランスを崩さずにいるのは想像以上に困難なことなのかもしれない。

ただ、世の中のレビュー記事を見ていると、HHKB Studioは一度使うともう手放せないという人も大勢いるのは間違いない。だから、いまこの時点の自分の要望に、いまこの時点の仕様がちょっと合っていなかった、というだけのことだと思う。新製品が出たらまた試すに違いないので、開発元の方々には是非このままいろいろな方向性を探り続けて欲しいと思う。

※バージョンメモ

  • HHKB Professional HYBRID Type-S 無刻印/雪 (日本語配列) FW:A2.47
  • HHKB Professional キーマップ変更ツール (Windows) 1.3.1
  • HHKB Studio 日本語配列/雪 FW:B2.08
  • HHKB Studioキーマップ変更ツール (Windows版) 1.1.0

【付録】HHKB Professional日本語配列のキーマップ

割り当て可能キー

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表記 ツールチップの説明
Opt Alt 左Alt
Opt Alt R 右Alt
BS Back Space
Caps Caps Lock
Clr Clear
Ctrl 左Control
Ctrl R 右Control
Del Delete
Ejec Eject
End End
Ent Enter
Esc Escape
Fn Function
Home Home
Ins Insert
Kana かな
Mute Mute
PgDn Page Down
PgUp Page Up
Pow Power
PSc Print Screen
Pus Pause/Break
ScrL Scroll Lock
Shift 左Shift
Shift R 右Shift
Stop Stop
Tab Tab
VolDn Volume Down
VolUp Volume Up
左♢
♢ R 右♢
半角全角
無変換
変換
  Space
アプリケーションキー
かな かな (Mac)
英数 英数 (Mac)
無効キー

デフォルトキーマップ

Winモード

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Macモード

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【付録】HHKB Studio日本語配列のキーマップ

割り当て可能キー

img

表記 ツールチップの説明
Opt Alt 左Opt/Alt
Opt Alt R 右Opt/Alt
BS Back Space
Caps Caps Lock
Clr Numlk Clear/Numlock
Ctrl 左Control
Ctrl R 右Control
Del Delete
Ejec Eject
End End
Ent Enter
Num Ent Keypad Enter
Esc Escape
Home Home
Ins Insert
Kana かな
Mute Mute
PgDn Page Down
PgUp Page Up
Pow Power
PS Print Screen
Pus Pause/Break
ScrL Scroll Lock
Shift 左Shift
Shift R 右Shift
Stop Stop
Tab Tab
VolDn Volume Down
VolUp Volume Up
/ Keypad /
* Keypad *
- Keypad -
+ Keypad +
⌘ Win 左Win⌘
⌘ Win R 右Win⌘
半/全 半角全角
無変換
変換
  Space
アプリケーションキー
かな かな (Mac)
英数 英数 (Mac)
無効キー
Fn1 Function 1
Fn2 Function 2
Fn3 Function 3
LB Mouse Left Click
MB Mouse Middle Click
RB Mouse Right Click
Alt TabL SWIPE:Alt+Tab+←(Win)
Alt TabR SWIPE:Alt+Tab+→(Win)
Cmd TabL SWIPE:Command+Tab+←(Mac)
Cmd TabR SWIPE:Command+Tab+→(Mac)
Spd + Pointing Stick Speed+
Spd - Pointing Stick Speed-
Spd 1 Pointing Stick Speed1
Spd 2 Pointing Stick Speed2
Spd 3 Pointing Stick Speed3
Spd 4 Pointing Stick Speed4
Bri ↑ Brightness Up
Bri ↓ Brightness Down
1 Keypad 1
2 Keypad 2
3 Keypad 3
4 Keypad 4
5 Keypad 5
6 Keypad 6
7 Keypad 7
8 Keypad 8
9 Keypad 9
0 Keypad 0
. Keypad .
Ms ↑ Mouse Cursor Up
Ms ↓ Mouse Cursor Down
Ms ← Mouse Cursor Left
Ms → Mouse Cursor Right
MW ↑ Mouse Wheel Up
MW ↓ Mouse Wheel Down
MW ← Mouse Wheel Left
MW → Mouse Wheel Right
Gspd Low GesturePad Sensitivity Low
Gspd Mid GesturePad Sensitivity Midium
Gspd Hi GesturePad Sensitivity High
Gspd Max GesturePad Sensitivity Highest
GLS ON GesturePad SideLeft Enable
GLS OFF GesturePad SideLeft Disable
GLS Tgl GesturePad SideLeft Toggle
GFL ON GesturePad FrontLeft Enable
GFL OFF GesturePad FrontLeft Disable
GFL Tgl GesturePad FrontLeft Toggle
GFR ON GesturePad FrontRight Enable
GFR OFF GesturePad FrontRight Disable
GFR Tgl GesturePad FrontRight Toggle
GRS ON GesturePad SideRight Enable
GRS OFF GesturePad SideRight Disable
GRS Tgl GesturePad SideRight Toggle
Pstck ON Pointing Stick Enable
Pstck OFF Pointing Stick Disable
Pstck Tgl Pointing Stick Toggle

デフォルトキーマップ

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